相続手続きを進める上で、まず最初に行うべき重要なステップの一つが「相続人の特定」です。相続人を正確に特定しなければ、遺産分割協議が適切に進まず、相続手続き全体が滞る可能性があります。また、相続人を誤って特定してしまうと、相続権を持つ者が正当な権利を受けられないといった重大な問題にも発展しかねません。そのため、相続手続き代行を依頼された専門家(弁護士、司法書士など)は、相続財産の調査と並行して、相続人の特定作業を慎重に進める必要があります。
今回は、相続手続き代行の流れの中で「代行者が行う相続人の特定」について、その重要性や具体的な手順、注意点を詳しく解説します。
1. 相続人の特定が必要な理由
相続手続きにおいて、相続人全員を正確に特定することは、法律に基づいて相続を進める上で必須です。法律に定められた相続人が全員揃っていないと、遺産分割協議が無効となったり、相続税申告が正しく行われなかったりするリスクがあります。
たとえば、相続人の一人が見落とされてしまうと、遺産分割協議で決定された内容にその人が参加していないため、後からその相続人が異議を唱えることができる状況になってしまいます。これにより、すでに行われた相続手続きが無効になり、再度やり直さなければならない可能性も出てきます。
また、相続税申告においても、相続人の数に応じて相続税の基礎控除額が変わるため、相続人を正確に特定することは、税務上も非常に重要です。したがって、相続手続き代行の代行者がまず行うべき作業は、すべての相続人を正確に特定し、その相続権を確認することです。
2. 相続人を特定するための基本的な手順
相続人の特定作業は、被相続人(亡くなった方)の戸籍を取得し、そこから家族構成や相続人の情報を確認するという流れで進められます。以下に、代行者が行う具体的な手順を説明します。
① 被相続人の戸籍謄本を取得
まず、代行者は被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本をすべて取得します。戸籍謄本は、被相続人の家族関係を確認するために最も基本的かつ重要な書類です。
被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍を遡って取得する理由は、戸籍上の変動(結婚、離婚、養子縁組、子供の出生など)を把握し、相続人に該当する人物を確定するためです。たとえば、被相続人が再婚していた場合や、養子がいる場合、または被相続人に隠し子がいる場合など、戸籍を確認しなければわからないケースが多々あります。
代行者は、被相続人が転籍している可能性も考慮し、古い戸籍から現在の戸籍までをすべて確認します。この過程で、被相続人が過去にどのような家族関係を持っていたかが明確になります。
② 法定相続人の確定
被相続人の戸籍謄本を基に、次に代行者は法定相続人を確定します。相続人には、民法で定められた「法定相続人」が存在します。法定相続人には以下のような優先順位があり、上位の者が相続権を持つことになります。
第1順位:子供(直系卑属)
被相続人に子供がいる場合、その子供が法定相続人となります。子供がすでに死亡している場合、その子供の子(被相続人の孫)が代わりに相続権を持ちます(代襲相続)。
第2順位:親(直系尊属)
被相続人に子供がいない場合、その親が法定相続人となります。被相続人の親が死亡している場合は、祖父母が相続人となる可能性があります。
第3順位:兄弟姉妹
被相続人に子供も親もいない場合、兄弟姉妹が法定相続人となります。兄弟姉妹がすでに死亡している場合、その子(被相続人の甥・姪)が代襲相続の権利を持つことがあります。
このように、法定相続人は民法によって定められており、被相続人の家族構成に応じて変動します。代行者は、この法定相続人の優先順位に従い、誰が正当な相続人であるかを確定していきます。
③ 相続人に連絡を取る
相続人が確定したら、代行者は相続人に対して連絡を取ります。この連絡は、相続手続きが開始されたことを伝え、遺産分割協議を進めるための第一歩です。
相続人が遠方に住んでいたり、連絡が取れない場合もあるため、代行者は可能な限り迅速かつ丁寧に相続人全員に連絡を取り、今後の手続きについて説明します。また、相続人間の連絡が途絶えている場合には、代行者が間に入って調整を行うこともあります。
・ 相続人特定の際の注意点
相続人を特定する際には、いくつかの注意点があります。これらの注意点を把握しておくことで、手続きをスムーズに進め、後々のトラブルを回避することができます。
① 隠れた相続人の存在
戸籍上に記載されていない「隠れた相続人」がいる場合、相続手続きが複雑化することがあります。例えば、被相続人が認知していない子供がいる場合や、養子縁組が行われている場合など、相続人の存在が後から発覚するケースもあります。
このような隠れた相続人の存在が判明した場合には、その人物も相続に参加する権利を持つため、遺産分割協議を再度やり直さなければならないことがあります。代行者は、被相続人の過去の婚姻歴や認知状況など、あらゆる可能性を考慮して調査を進める必要があります。
② 行方不明の相続人
相続人の中に行方不明者がいる場合、そのままでは相続手続きが進められません。こうしたケースでは、裁判所に申し立てを行い「不在者財産管理人」を選任してもらう必要があります。この手続きには時間がかかることが多いため、行方不明の相続人がいる場合は早めに対応を進めることが重要です。
③ 代襲相続の確認
相続人がすでに亡くなっている場合、その子供(被相続人の孫など)が代襲相続人として相続権を持つことになります。この場合も、代襲相続人を正確に特定し、相続に参加させることが必要です。特に、代襲相続が発生すると相続人の数が増えることがあるため、慎重な確認作業が求められます。
3. 相続人特定後の手続き
相続人を正確に特定した後、遺産分割協議や相続税の申告などの具体的な相続手続きに進むことができます。相続人全員が確定していなければ、これらの手続きを進めることができないため、最初の段階で相続人を確実に特定することが非常に重要です。
また、相続人全員に同意を得て、遺産分割協議書を作成する際にも、相続人の人数が増えると話し合いが長引くことがあるため、適切な調整が求められます。
まとめ
「代行者が行う相続人の特定」は、相続手続きの中で最も重要な初期段階の一つです。相続人を正確に特定し、全員が適切に手続きに参加することで、遺産分割協議や相続税申告がスムーズに進みます。
相続人を特定する過程では、被相続人の戸籍謄本を取得し、法定相続人を確定し、必要に応じて相続人に連絡を取る作業が行われます。この手続きには注意点も多く、隠れた相続人や行方不明の相続人の存在に十分注意しながら、慎重に進める必要があります。
相続手続きが複雑化しないよう、最初の段階で正確な相続人特定を行い、専門家のサポートを受けながら相続手続きを進めることが、成功への鍵となります。