遺言書を作成し、内容を確定した後でも、状況や家族構成、財産状況の変化によって、遺言内容を変更したり、撤回する必要が出てくることがあります。遺言者の意思や生活状況が変わった際に、遺言書をそのままにしておくと、最終的な遺産分配が遺言者の現時点の意向とずれてしまう可能性が高くなります。
今回は、遺言書を保管している状態での「遺言の変更」や「遺言の撤回」について、どのように対応すべきか、その具体的な手続きや注意点について詳しく解説します。
1. 遺言の変更・撤回はいつでも可能
日本の法律では、遺言書を作成した後でも、遺言者が生存している限り、遺言内容を自由に変更・撤回することが可能です。遺言者が精神的に健全な状態であれば、いつでも新たな遺言を作成したり、既存の遺言を無効にしたりすることができます。これは、遺言者の意思が最優先されるためです。
例えば、次のような状況が生じた場合、遺言内容の変更や撤回を検討する必要があります。
・財産状況の変化:財産を売却したり、新たに取得した場合、遺産分割内容が現状に合わなくなるため、変更が必要です。
・家族構成の変化:新たな子供の誕生、相続人の死亡、結婚や離婚など、家族構成が変わる場合。
・相続人への配慮の変更:特定の相続人に多くの財産を残したい場合や、相続人同士の関係が変わり、分配割合を見直す必要がある場合。
2. 遺言書の変更方法
遺言書を変更するには、新たに遺言書を作成し、変更内容を正確に反映させる必要があります。変更方法は、元の遺言書の形式や内容に応じて異なります。以下に、変更方法について詳しく説明します。
① 自筆証書遺言の変更
自筆証書遺言は、遺言者がすべての内容を自筆で記載する形式の遺言書です。自筆証書遺言を変更する場合は、以下の方法があります。
・新しい遺言書を作成する:自筆証書遺言は新たに作成することで、以前の遺言書を自動的に無効にできます。日付の新しい遺言書が優先されるため、全く新しい内容で作成するか、一部を変更する内容で作成します。
・追記・訂正:すでに作成した遺言書の一部を修正したい場合、該当部分に追記や訂正を加えることができます。ただし、追記や訂正は、手書きで行い、修正箇所に署名と捺印を行う必要があります。具体的には、訂正箇所に線を引いて訂正し、余白に訂正箇所数を記載し、署名と捺印を行います。
追記や訂正の際には、法律で定められた要件を満たさないと遺言書全体が無効になる可能性があるため、できる限り新しい遺言書を作成する方が安全です。
② 公正証書遺言の変更
公正証書遺言は、公証人が関与して作成されるため、変更する際も公証役場での手続きが必要です。公正証書遺言を変更する際には、新たに公証人の立会いのもとで新しい遺言書を作成します。この場合、新しい公正証書遺言が優先されるため、以前の遺言書の内容が一部でも新しい遺言書と異なる場合、最新の日付の遺言書が適用されます。
公正証書遺言の変更手続きは、弁護士や公証人に相談しながら進めることで、適切な形で遺言内容が変更されることを確実にできます。
③ 秘密証書遺言の変更
秘密証書遺言は、遺言者が内容を秘密にしたまま、公証人と証人の前で作成する形式です。秘密証書遺言を変更する場合も、新しい遺言書を作成し、内容を反映させます。変更内容を他者に知られたくない場合、再び秘密証書遺言として新しい遺言書を封印し、公証人の前で手続きを行います。
3. 遺言の撤回方法
遺言書を撤回したい場合も、法的に有効な手続きを取る必要があります。遺言の撤回は、特定の内容を撤回する場合や、遺言書全体を無効にしたい場合に行われます。
① 新しい遺言書の作成による撤回
最も簡単な遺言の撤回方法は、新しい遺言書を作成することです。新しい遺言書が作成されると、日付が古い遺言書は無効になります。新しい遺言書の内容が以前の遺言書と一部でも異なる場合、最新の遺言書が優先されます。
② 明示的な撤回
遺言書に「以前に作成した遺言書をすべて撤回する」という文言を明示的に記載することで、過去に作成した遺言書をすべて無効にすることが可能です。この場合、新たに作成する遺言書には、すべての財産分配や相続人に関する指示が含まれていなければなりません。
③ 物理的な破棄による撤回
物理的に遺言書を破棄することで、遺言書全体を撤回することができます。具体的には、遺言書を燃やしたり、破り捨てたりすることで、遺言者がその遺言書の効力を無効にする意思を示すことができます。ただし、物理的に破棄しただけでは、その後に遺言者が別の遺言書を作成しなければ、遺言がない状態で相続が進むことになるため、遺言書の破棄には慎重さが求められます。
4. 遺言の変更・撤回時の注意点
遺言の変更や撤回を行う際には、いくつかの注意点があります。これらを考慮しながら進めることで、法的に有効な遺言書を維持し、遺言者の意思が確実に反映されるようにすることができます。
① 最新の遺言書を確認する
遺言書の変更や撤回を行う際は、必ず最新の遺言書が有効であることを確認しなければなりません。新しい遺言書を作成したにもかかわらず、古い遺言書が発見され、それが誤って実行されてしまうと、遺言者の意思が正しく反映されないことになります。複数の遺言書を保管している場合には、不要になった遺言書を確実に無効にし、破棄することが重要です。
② 遺留分への配慮
遺言内容を変更する際、法定相続人の遺留分を侵害しないよう注意する必要があります。遺留分は、配偶者や子供など法定相続人に保障された最低限の相続分であり、これを侵害すると遺留分侵害額請求が行われる可能性があります。遺留分を考慮しながら、遺言内容を変更することが重要です。
③ 法的な要件を遵守する
遺言の変更や撤回を行う際は、必ず法的な手続きを正確に遵守する必要があります。特に、自筆証書遺言を変更・撤回する場合は、手続きの不備によって遺言書全体が無効になるリスクがあるため、専門家に相談しながら進めることが推奨されます。
まとめ
遺言書を保管している間でも、状況の変化に応じて遺言内容を変更したり、撤回することは可能です。財産状況や家族構成が変わると、遺言書の内容もそれに合わせて更新する必要があります。遺言の変更・撤回には法的な要件を満たす必要があり、特に自筆証書遺言では手続きに注意が求められます。
遺言書の変更・撤回をスムーズに進めるためには、弁護士や公証人などの専門家に相談することが重要です。専門家のサポートを受けながら、法的に有効な遺言書を維持し、最終的な意思を確実に反映させるための対策を講じることが、相続人間のトラブルを未然に防ぐ鍵となります。