遺留分侵害額請求

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相続の過程で、遺言書により自分の相続分が減らされたり、全く受け取れないという状況に直面することがあります。そんな場合に頼りになるのが「遺留分侵害額請求権」です。

遺留分(いりゅうぶん)とは、相続において法定相続人に最低限保障されている相続財産の割合のことを指します。相続財産は、被相続人が自由に処分できるものですが、法定相続人(直系尊属、配偶者、子供など)には最低限の取り分が保障されています。これが遺留分です。

1. 遺留分侵害額請求権の概要

遺留分侵害額請求権は、遺留分が侵害された法定相続人が、その侵害を受けた相手に対して、遺留分相当の金銭を請求する権利です。この権利は、2019年の法改正により「遺留分減殺請求権」から「遺留分侵害額請求権」に名称が変更されました。これにより、請求の対象が遺産そのものではなく、金銭による解決が基本となっています。

2. 遺留分侵害額請求権の行使方法

遺留分侵害額請求権を行使するには、いくつかの手順を踏む必要があります。ここでは、具体的な行使方法について解説します。

2.1 裁判所を介さない方法

まずは、裁判所を介さずに行う方法です。通常、遺留分侵害額請求は相手との交渉から始まります。この段階では、内容証明郵便を利用して請求書を送付し、請求内容を証明することが一般的です。内容証明郵便は、いつ、どのような内容で請求を行ったかを後々証拠として残すために重要な手段です。

交渉が成立すれば、合意内容に基づいて遺留分の金銭が支払われます。交渉がうまくいけば、裁判に持ち込むことなく解決することが可能です。

2.2 裁判所を介する方法

交渉が不調に終わった場合、次のステップとして裁判所を介する方法があります。遺留分侵害額請求権の裁判を行う前に、必ず調停を経る必要があります。調停では、裁判官と調停委員が双方の話を聞き、調停案を提示して解決を図ります。調停が成立しない場合、正式に訴訟を提起し、最終的には判決に基づいて強制執行が行われます。

3. 遺留分侵害額の計算方法

遺留分侵害額請求権を行使する際には、遺留分侵害額を正確に計算する必要があります。ここでは、遺留分の計算方法について詳しく見ていきます。

3.1 遺留分の割合を確認

まず、遺留分の割合を確認します。遺留分の割合は、相続人の関係によって異なります。

直系尊属のみが相続人の場合:遺留分は法定相続分の1/3
配偶者や子供が相続人の場合:遺留分は法定相続分の1/2
兄弟姉妹:遺留分は認められていません
例えば、相続人が配偶者と子供の場合、法定相続分は配偶者が1/2、子供が1/2ずつとなり、遺留分はその半分、つまり配偶者が1/4、子供も1/4ずつとなります。

3.2 基準となる財産額の確認

遺留分侵害額を計算するためには、まず基準となる財産額を確認します。財産の評価は通常、被相続人が亡くなった時点での時価を基準にします。負債がある場合は、その額を差し引いた純資産が遺産総額となります。

3.3 遺留分侵害額の具体的な計算

次に、基準となる財産額に遺留分割合を掛けて、遺留分侵害額を計算します。例えば、2,000万円の遺産があり、相続人が配偶者と子供2人の場合、子供1人あたりの遺留分は

2,000万円 × 1/8 = 250万円

となります。これが、遺留分侵害額請求の対象となる金額です。

4. 遺留分侵害額請求権の時効

遺留分侵害額請求権には時効が存在します。時効が成立すると、請求権が消滅してしまうため、注意が必要です。

4.1 遺留分侵害を知った時からの時効

遺留分侵害額請求権は、遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年以内に行使する必要があります。この期間を過ぎると、請求権が時効により消滅します。

4.2 相続開始からの時効

また、相続が開始してから10年が経過すると、遺留分侵害額請求権は消滅します。これは、遺留分侵害の事実を知らなかった場合でも適用されるため、相続開始後は迅速に対応することが重要です。

5. 遺留分侵害額請求権の注意点

遺留分侵害額請求権を行使する際には、いくつかの重要な注意点があります。これらを理解しておくことで、スムーズに請求を進めることができます。

5.1 交渉の記録を残す

遺留分侵害額請求に関する交渉は、必ず記録を残すようにしましょう。特に、口頭での交渉は後に証拠として残りにくいため、書面でのやり取りを心がけることが重要です。内容証明郵便を利用することで、交渉内容を証拠として残すことができます。

5.2 家庭裁判所の調停を活用する

交渉が難航した場合、家庭裁判所の調停を活用することを検討しましょう。調停は、裁判よりも費用が抑えられ、時間も短縮できるため、相続人同士での話し合いが困難な場合に有効な手段です。

5.3 法的アドバイスを受ける

遺留分侵害額請求は、法律的に複雑な側面が多く、個人で対応するのは困難な場合があります。弁護士や税理士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることが大切です。