1.申立ての手順

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成年後見制度は、判断能力が低下した人の権利や財産を保護するために重要な制度ですが、この制度を利用するためには、家庭裁判所に対して「申立て」を行う必要があります。申立てを行うことで、後見人や保佐人、補助人といった支援者を選任し、本人が安心して生活できる環境を整えることができます。

今回は、成年後見制度を利用するための申立て手順について、具体的な流れと重要なポイントを解説します。

1. 成年後見制度の申立ての必要性
成年後見制度は、家庭裁判所の判断に基づいて後見人などが選任され、本人の生活や財産を支える仕組みです。申立ては、この制度を利用するための第一歩であり、本人の判断能力が低下している状況や、支援が必要であることを証明する手続きが求められます。

申立ては、家庭裁判所を通じて行われ、裁判所が後見人を選任するまでの過程が重要です。この手続きを適切に進めることで、本人にとって最善の支援が確保されます。

2. 申立てを行うことができる人
成年後見制度の申立ては、誰でも行えるわけではなく、一定の関係者が申立権を持っています。申立てを行うことができるのは、次のような人々です。

・本人(判断能力が低下している場合でも、本人自身が申立てを行うことができます)
・配偶者
・4親等内の親族(子、孫、兄弟姉妹、甥、姪など)
・市町村長(本人に近親者がいない場合や、必要な支援が行われていない場合)
・検察官

多くの場合、親族が本人に代わって申立てを行いますが、本人に身寄りがない場合や、家族による支援が不十分な場合には、市町村長が代わって申立てを行うケースもあります。自治体が関与することで、本人の権利を守ることができる仕組みとなっています。

3. 申立ての流れ
成年後見制度の申立ては、家庭裁判所に対して書類を提出するところから始まります。申立ての具体的な手順は以下の通りです。

① 書類の準備
申立てを行うためには、まず必要な書類を準備する必要があります。基本的に、以下の書類が必要です。

・申立書:本人の情報や申立人の情報を記載します。申立書は、家庭裁判所の指定の形式に従って作成します。
・診断書:本人が判断能力に問題があることを証明するため、医師による診断書が必要です。診断書は、家庭裁判所指定の書式に基づいて作成されます。
・財産目録:本人の財産状況を明らかにするため、預貯金や不動産、株式などの資産を記載した財産目録を提出します。
・収支予定表:本人の生活費や支出、収入などを記載した書類です。成年後見制度を利用する際に、どのような支援が必要かを具体的に示します。
・親族関係説明図:申立人と本人の関係を明らかにするため、親族関係を図式化した書類を提出します。

書類の準備には、正確な情報が必要であり、特に診断書や財産目録は重要な書類となるため、漏れなく提出することが求められます。

② 家庭裁判所への提出
書類が整ったら、家庭裁判所に提出します。成年後見制度の申立ては、本人の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。申立ての際には、提出書類と共に、手数料や郵券(切手)が必要となる場合がありますので、事前に家庭裁判所の指示に従い、必要な費用も準備しておきましょう。

③ 裁判所による審査
申立てが受理されると、家庭裁判所による審査が始まります。この審査の過程では、以下のような手続きが行われます。

・本人の審問:家庭裁判所は、申立ての内容や本人の状態を確認するため、本人に対して審問を行うことがあります。これは、本人の意思や判断能力の程度を確認するためです。
・医師の意見聴取:裁判所は、提出された診断書に基づき、医師の意見を聞くことがあります。これにより、判断能力の低下の程度を客観的に把握します。
・関係者への意見聴取:家庭裁判所は、親族や関係者に対しても意見を聴取し、後見人を選任するための参考資料とします。
この審査の過程は、数か月程度かかることがあります。審査が終了すると、家庭裁判所は後見人や保佐人、補助人を選任し、その旨を決定します。

④ 後見人の選任
家庭裁判所による審査が終了すると、最終的に後見人が選任されます。後見人は、本人の財産管理や生活支援を行うための法的な権限を持つことになります。後見人には、親族が選ばれることもありますが、家庭裁判所が第三者を選任することもあります。

たとえば、親族間での意見の対立がある場合や、親族が後見人としての役割を果たすのが難しい場合には、弁護士や司法書士といった専門家が後見人として選任されることがあります。

⑤ 後見開始の通知
後見人が選任されると、後見の開始が家庭裁判所から通知されます。この通知により、後見人は正式に本人の財産管理や生活支援を開始します。また、後見の開始により、本人が自ら行うことが難しい法律行為については、後見人が代理人として対応することが可能になります。

4. 申立てのポイント
成年後見制度の申立てを円滑に進めるためには、以下の点に注意することが重要です。

・正確な書類作成:申立書や財産目録、診断書など、提出する書類は正確に作成することが求められます。特に、診断書や財産目録は、後見人選任において重要な情報となるため、漏れや誤りがないように注意しましょう。

・家族間の合意:後見人の選任にあたっては、家族間での意見の一致が重要です。申立てを行う前に、家族と十分に話し合い、後見制度の利用について共通の理解を得ておくことが必要です。

・専門家への相談:申立て手続きは複雑なため、弁護士や司法書士といった専門家に相談することも有効です。専門家の助言を受けることで、手続きがスムーズに進み、後見制度を効果的に活用できるでしょう。

まとめ
成年後見制度を利用するための申立ては、家庭裁判所への書類提出から始まり、審査を経て後見人が選任されるまでの一連の手続きが必要です。この申立て手続きを適切に進めることで、判断能力が低下した本人の生活や財産を保護し、安心して暮らせる環境を整えることができます。申立ての際には、正確な書類の準備や家族間の合意、専門家の助言を得ることが成功の鍵となります。